「モルダウ」の調べ ターリヒの演奏
猛暑である。
都内でも八日間連続猛暑日、などと暑さを加速するような報道をしている。
水辺で涼を取りたい、そんなことを考えるうち、川、河っていいよな…
ふと思って、「モルダウ」を聴くことにした。
この「モルダウ」は、ミ ラー シドー レミー ミファー ファー ミー
というメロディでお馴染みの曲であるが、単独の管弦楽曲ではない。
好きな人ならご存知だろうが、スメタナの連作交響詩「わが祖国」の中の一曲である。
Ⅰ ヴィシュフラト(高い城) Ⅱ ヴルタヴァ(モルダウ) Ⅲ シャールカ
Ⅳ ボヘミアの森と草原より Ⅴ ターボル Ⅵ ブラニーク
この六曲からなるのが「わが祖国」である。
スメタナはその祖国、チェコをこよなく愛していたという。そのチェコの風景や歴史、
伝説などさまざまな要素を取り込み、数年の歳月をかけて音にしたのが「わが祖国」
なのだ。
彼が曲に着手した頃、難聴や耳鳴りに悩まされ始め、この曲を完成した1879年には殆ど
耳が聞こえなくなっていたということだ。まだ五十五歳、そしてその五年後、
彼は世を去っている。
日本では「モルダウ」がつきぬけて知られているようだが、確かにそれだけのものは
あるかもしれない。
フルートやクラリネットの柔らかな調べから始まり、ハープの音や弦がそれに加わっていく…
その同じメロディを弦の低いところ(チェロ?)がトゥッティで少し奏で、先に書いた
ミ ラー シドー レミー ミファー ファー ミー という有名な旋律を
ヴァイオリンが歌う…
管楽器、打楽器も加わって、徐々に音に厚みを加えながら、展開していくこの曲、響きや
節回しの見事さもあって、やはり人の心を強く打つのだろうと思う。
今、こうして書くために改めて聴きなおしているのはターリヒ指揮の物であるが、これは外盤で
曲の解説を見るのに、ターリヒの弟子であった、これまたチェコの名指揮者、ノイマンの「わが
祖国」のCDジャケットを読んでみたら、こんなことが書いてあった。
第2曲 モルダウ
前略…作曲者自身、この曲に関してほぼ次のように記している-ふたつの水流がボヘミアの森の
奥から流れ出す。ひとつ(フルートと弦のピチカートによる)は冷たく、もうひとつ
(クラリネットが加わる)は暖かい。それはいつかひとつになり、森(ホルン)や牧場、そして
楽しい結婚式がおこなわれている田園風景などを通り抜け、水の妖精が月明かりに舞う夜を
むかえても更に流れ、第一曲の「高い城」のメロディが登場して、「高い城」の脇を流れる
モルダウが表現され、やがてそれは大きな流れとなり、彼方へと流れ去る-
少し変えて書いたが、このようなスメタナの表したかったその言葉に沿って、曲は進んでいく。
最後は少々勇ましい感じの、カデンツでしめられている。
最初にざっくり聴いて感じた楽器は当たりだったが、弦のピチカートが良く聴きとれていな
かった。
窓を開けていたので、表を通る車の音に消された模様だ。静かな所でまた聴いてみよう。
ターリヒはやや早めなのかな、というテンポで、しかし実に細やかな色付けでこの曲を演奏
している。
「モルダウ」が好きなら、是非、全曲を聴くことをお奨めしたい。
それがスメタナの意思であり、またスメタナの「わが祖国」であるからだ。